AtCoder Beginner Contest 306 の E 問題で使ったふたつのヒープキューを使うと削除をシミュレートできるやつ
問題はこちら。
はじめに問題文を読んだとき、「平衡二分木か…?」とも思いましたが、競プロ界隈有名事実の「ヒープキューを2つ使えば、削除も対応可」を思い出しことなきを得ました。(一日置いて考え直してみると、座圧して Fenwick Tree 2本用意する感じでも解けなくもなさそう? 同じ値が複数あるときの取り扱いが面倒そうかも)
意外と python のサンプルスクリプトがネットに転がってなさそうだったので、次回はコピペで済ませたいなという思いから、この度パッと貼って使えるスニペットをご用意する運びとなりました。
以下、ふたつのヒープキューを使って、削除をシミュレートできるやつのスクリプトです。
import heapq class DeletableHeapq: def __init__(self, q): # 一度シャローコピーしているので、計算量が心配な時はコピーを無くす # コピーをなくした場合は、引数に渡した q 自体もヒープキュー化されてしまうので注意 self.q = [qi for qi in q] heapq.heapify(self.q) self.removed_q = [] def pop(self): return heapq.heappop(self.q) def push(self, v): heapq.heappush(self.q, v) def remove(self, v): heapq.heappush(self.removed_q, v) for _ in range(len(self.removed_q)): if self.q[0] == self.removed_q[0]: heapq.heappop(self.q) heapq.heappop(self.removed_q) else: break
(追記)
とか言ってたら、記事を投稿した直後に他の方の Python での実装を発見しました。
[Python] heapqを応用して挿入/削除/最小値取得を効率的に行う - socha77’s blog
おそらくですが、こちらの方の実装の方が処理が少し早いはず。
AtCoder Beginner Contest 304 の F 問題に出てきた約数包除のサンプルコード
問題の元ネタはこちら。
ABC の F 問題で、約数系包除原理の問題が出るような時代になったみたいです。
約数系包除原理で検索すると、見つかる有名どころの解説記事はここらへんでしょうか。本記事ではあまり包除原理自体の説明には踏み込まないので、仕組みを知りたい方はこちらの記事に飛ぶのがおすすめです。
以下、ABC304F の AC コード を少しだけ書き換えたものを置いておきます。
約数包除系問題の解答コードの雛型として利用することを想定しています。
from itertools import combinations import math def dividers_pie(n): # 前処理のエラトステネスの篩 prime_flg = [True] * (n + 1) prime_flg[0] = False prime_flg[1] = False for i in range(2, math.ceil(n ** 0.5) + 1): if not prime_flg[i]: continue for j in range(2, n // i + 1): prime_flg[i * j] = False primes = [i for i, flg in enumerate(prime_flg) if flg] # 素因数と、素因数の個数を求めておく prime_factors = [p for p in primes if n % p == 0] pf_count = len(prime_factors) ans = 0 # 場合によっては、このループを 1 始まりなどにする必要あり。 # 元ネタの ABC304F では 1 始まりにしてた for i in range(0, pf_count + 1): for choosed_pfs in combinations(prime_factors, i): factor = 1 for pf in choosed_pfs: factor *= pf if factor > n: continue # ここも問題によりけり。ABC 304F では符号は逆 sign = 1 if i % 2 == 0 else -1 # あとは hogehoge を問題に合わせて求める ans += sign * hogehoge return ans
計算量につきましては、エラトステネスの篩の部分が ほど。
for i in range(0, pf_count + 1): for choosed_pfs in combinations(prime_factors, i):
ここのループが、 (ただし、
は
の素因数の個数)となりますが、
のとき
、
のとき
なので大したループにはなりません。
「ネストすごろく」のゴール確率を計算してみた
震源地はこちら。
[問] 下記のネストすごろくをクリアできる確率はいくらでしょうか?
— 徐嶺依 (@koteitan) 2022年12月19日
ネストすごろく:ゲームが始まると、下記のように START のマスにいる状態になります。サイコロを振り、出た目の数だけ右に進みます。GOAL に達するとクリアです。(GOAL を超えて進む目が出たとしてもクリアです) (つづく) pic.twitter.com/MRBKwbixNj
検索した感じ、この記事ができた時点で一番端的な解答に見えた方のツイートがこちら。(とか言ってたら、ぎりぎり公式解答がこの記事より先に出てて泣いた)
ネストすごろく、可算個の目全体について「最初のk個が特定のものである確率が1/6^k」という測度を入れたとき、ネストすごろくでゴールする目の列全体は(ネスト0でゴールする列)∪(ネスト1でゴールする列)∪…となるから可測で、それぞれ確率を求めて和を考えれば0.54…となるはず
— しおあびび (@sioabb) 2022年12月21日
というわけで、やっていきましょう。
確率空間 および、可算無限個の確率変数
を用意します。
任意の について、
です。
また の組は独立であり、任意の
について
とします。
有限回の移動でゴールに到達したことを表す論理式 を置きます。
このとき とすると、求めたい値は以下のようになります。
つぎに、最も深いネストが第 層(
)以内という条件下で、ゴールに到達したことを表す論理式
を置きます。
このとき、以下の3つが成り立ちます。
- 任意の
において、
- 任意の
について、ある
が存在し
ならば、任意の
について
とおくと、以下が成り立ちます。
- 任意の
において、
- さらに
より、
が収束する
一番最後の主張は としたとき、先述の
と
の性質より
かつ
から示せます。
以上より、 が成り立ちます。
次に、ゴールからのマス目の距離が のマスからスタートして、最も深いネストが第
層(
)以内という条件下でゴールに到達できる確率を
と置きます。
である点に注意してください。
このとき、以下が成り立ちます。
これをうまいこと式変形すると、以下を得ます。
それぞれ代入することで、
を得ます。
手計算で求めるのは大変なので、以下の python スクリプトで算出しています。
from fractions import Fraction # 係数をリストで保持 ans = [0, 0, 0, 0, 0, 1] for _ in range(5): # (p_(n, 6) / 6 + 1) 倍 ans = [ ( ans[i] + ans[i + 1] * Fraction(1, 6) if i < 5 else ans[i] ) for i in range(6) ] # 1/6 を引く ans[-1] = ans[-1] - Fraction(1, 6) print(ans)
ちなみに、
とおくと、 について以下が成り立ちます。
- 連続である
- 狭義単調増加である
- 下に凸である
- 方程式
は区間
において、解
を持つ。ただし、
を満たす
である
以上より、 ならば、
が成り立ちます。
以上から、
に対し、
を用いて下から評価すると、
となるため、 となります。
ちなみに がいくらくらいになるかというと
となるようです。
from fractions import Fraction l = [ Fraction(1, 7776), Fraction(29, 7776), Fraction(55, 1296), Fraction(25, 108), Fraction(5, 9), Fraction(1, 6) ] # ここも Fraction 型にすると計算時間がとてもかかるので、ans は float 型に。 ans = 1/6 while True: prev_ans = ans ans = sum( li * (prev_ans ** (5 - i)) for i, li in enumerate(l) ) if abs(ans - prev_ans) < 0.0000001: print(ans) break
ウィルソンの定理
素数に関する定理で、面白いものを見つけたのでメモ。
自然数 について、素数全体の集合を
と置くとき、
表題の定理の場合は が素数
となっています。
が素数でないときの、
で割った余りがいくつになるかも、ひと手間加えれば示せるので、先のような書き方にしています。
以下、証明です。
のとき、
より成立します。
のとき、
より成立します。
のとき、
より成立します。
が
以外の合成数のとき、
となる
が存在します。 ただし
はどちらも
以上
以下かつ、
です。
のとき、適当な
を用いて
と表せるため、
です。
のとき、
となることから、
です。ここから、適当な
を用いて
と表せるため、
です。
が
以外の素数のとき、
法 における原始根
が存在します。ここから、
となります。
左辺を
と式変換し、これを
とおくと、
となり、
が素数なことから、
となります。
とすると、
を満たす
が存在することになりますが、
が奇数であることより矛盾。よって
となります。
競プロのアルゴリズムまとめのカテゴリを着けましたが、たぶん競プロで使うことはないです。素数判定は で可能ですし。どちらかというと、定理を用いて計算飛ばしたりするのに使う可能性の方が高いかも。
もしくは証明の途中に登場した原始根が、NNT(数論変換)を理解する上での前提知識となっているので、そちらの方が競プロでは有用かもしれません。
AtCoder Heuristic Contest 015 参加しました
ご参加された皆々様、お疲れさまでした。
得点:121,539,661 点
順位:184位(1447人中)
でした。ヒューリスティックで青パフォは初だったのでうれしい。
解法はこちらです。
いわゆる貪欲 + モンテカルロ系解法(のはず)です。
一番最初に出した解答はこちら。
問題文を読み込んで必要そうな関数を実装し終えたあと、毎ステップごとに(連結成分の大きさの二乗和)/(各キャンディーの個数の二乗和)が最大になるように傾けていきます。ただの貪欲。
評価関数を調整するのが正しいのかなぁと考えながらも、いいアイディアが思いつかなかったので、処理時間が許す限り、1手先の盤面をシュミレーションする方針に。
サンプリングする数を増やすごとに点数が伸びたのでこれはこれでよかったのかな。
Twitter でも流れてきましたが、きわめてシンプルなルールベースでも、もっと高得点が出せるらしいです。悲しい。
def main(): f = list(map(int, input().split())) prev = None for fi in f[1:]: _ = input() move = None if fi == 1: move = "B" elif prev == "B": move = "F" elif fi == 2: move = "R" elif fi == 3: move = "L" print(move) prev = move if __name__ == "__main__": main()
これで、133,637,155 点出ます。
AtCoder Beginner Contest 267 の G 問題の解説に出てきた Eulerian number
元ネタその1
元ネタその2
def eulerian_number(n, m, MOD=998244353): ans = 0 sign = 1 comb = 1 for i in range(m+1): ans += sign * comb * pow((m + 1 - i), n, MOD) ans %= MOD sign *= -1 comb *= (n + 1 - i) comb *= pow(i + 1, -1, MOD) comb %= MOD return ans
Wikipedia の Explicit formula セクションの式を、愚直に実装したものになります。
の部分については、Wikipedia の通りに
まで足し上げると、
となってしまい無駄になるため、python の for ループの上限を
までにしています。
で、スクリプトを見ていただければわかる通り、この実装の Eulerian number の計算量は となっています。
解説記事は のアルゴリズムがあるとのことなので、他の計算方法があるということなんでしょうか...?
AtCoder Beginner Contest 266 の E 問題の解析解
問題はこちら
で、AC コードはこちら
第一引数が float の場合の python の pow 関数の計算量について詳しくないのですが、もし int の場合と同じであれば計算量 の解答となります。
やっていることは、公式解説をもとに、簡単なさんすうの知識で計算量を改善しているだけです。以下解説。
まずは解説の式を見ていただきつつ、有理数は全順序集合であることから、解説の式は以下の7パターンに書き下せることがわかります。
\begin{align} f(N) = \begin{cases} \frac{7}{2} & (f(N-1) \lt 1) \cr \frac{1}{6} \times f(N-1) + \frac{10}{3} & (1 \leq f(N-1) \lt 2) \cr \frac{1}{3} \times f(N-1) + 3 & (2 \leq f(N-1) \lt 3) \cr \frac{1}{2} \times f(N-1) + \frac{5}{2} & (3 \leq f(N-1) \lt 4) \cr \frac{2}{3} \times f(N-1) + \frac{11}{6} & (4 \leq f(N-1) \lt 5) \cr \frac{5}{6} \times f(N-1) + 1 & (5 \leq f(N-1) \lt 6) \cr f(N-1) & (6 \leq f(N-1) \end{cases} \end{align}
また、漸化式の形から が広義単調増加関数であることと、特に
の範囲においては狭義単調増加関数であること、そして
かつ
から考慮が必要なのは
の条件を満たす3つの式だけであることがわかります。
よって は以下のように書き下せることがわかります。
漸化式が高々一次方程式である場合簡便な解析式が与えられることは周知の事実であり、かつパラメータの取得手法も有名であり、その手法を使用することで以下の式を得ます。
\begin{align} f(N) = \begin{cases} - \frac{3}{2} \times (\frac{1}{2}) ^ {N - 1} + 5 & (N \leq 2) \cr - \frac{5}{4} \times (\frac{2}{3}) ^ {N - 2} + \frac{11}{2} & (N \leq 5) \cr - \frac{47}{54} \times (\frac{5}{6}) ^ {N - 5} + 6 & (5 \lt N) \cr \end{cases} \end{align}
これを、コードに書き下したものが先述の AC コードとなります。